医療英語:英英辞書を併用する

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医療英語:英英辞書を併用する

 

医療英語:英英辞書を併用する

 

“I’m sorry” she smiled ironically.
拙訳: 「すみません」と女は皮肉っぽく笑った。
改訳: 「お気の毒様」と女は皮肉っぽく笑った。

 

英和辞書は、その英語に対応する代表的な日本語の訳語を示しているだけで、それ以外にいくらでも適訳があるはずです。

 

この場合、アメリカやイギリスの英語辞書ではその単語の真の語義を知れば、おそれずに英和辞書の訳語を離れて、ケースバイケースに、その単語がその前後の文脈で持つ意味を判断し、その場合にピッタリの訳語を自分で考え出して使えばよいわけです。

 

もしも原著者が日本語を知っていたならば、このとき日本語ではどう言っているであろうかと心に浮かべながら翻訳するのがよいでしょう。

 

英和辞書を引いて翻訳していると何か靴を隔ててかゆいところを掻いているような、あるもどかしさやじれったさを感じ、原文ピッタリの日本語訳がでてこないことがあります。

 

それは英和辞書の訳語をいったん見てしまうと、その訳語により元の英語のもつ意味の流動性が窮屈に縛られてしまうからです。例えばI’m sorry.を英和辞書で見ると「すみません」「残念です」としかありません。

 

しかし英英辞書を見るとsorry (adj) feeling regret, compunction, pityとあり、それを頭に入れておいて自由な日本語に訳せばよいわけです。

 

ためしに日本の小説の英語翻訳を読んでそこに出てくるI’m sorry.を拾い出して、その元の日本文と比べてみると「すみません」「残念です」のほか、「お気の毒様」「悪かったわ」「ごめん」「失礼致しました」「おじゃま様」「かわいそう」「そりゃあひどい」「どうもおさわがせしました」等々、等々、じつに千変万化の日本語になっていることに驚かされます。

 

そこで前掲の英文の場合<お気の毒様>と翻訳しないことには、女の皮肉をまじえた、ばか丁寧な言葉の感じが原文から日本文に移されません。
あるいはまた、coffee tableという単語を英和辞書で引いて<コーヒーテーブル>だと知って、はたして日本人に分かったといえるでしょうか。

 

この場合、英英辞書を引いてみるとa low table, usually placed in front of a sofa, for holding ash trays, glasses, cups, plates, etc.; also tea table, cocktail tableとあります。ここで初めてcoffee tableの何であるかが分かります。

 

更にまた、日本人の手になる英和辞書には、誤りや不適当な説明が散見されるので、その点でも英米人の手になる英英辞書の併用が是非とも必要です。

 

例えば “backside”を引くと 「裏側」と訳語が示されていますが、英語でbacksideとは「尻」という意味の極めて下品で口で言えないようなスラングであり、「裏側」という意味は全くありません。

 

そこで「〜の裏側に書いてある」というのはIt is printed on the reverse side. It is printed on the back.と言います。ついでに「尻」の意の英語を正式な言葉から並べるとbuttocks(臀部)―――hips(尻)―――seat(尻)―――buttoms(おいど)―――backside(けつ)となります。

 

また誤りではないですが不適当なのは”originate”のところに、The fire originated in the kitchen.(火事は台所から出た)という例文を示していますが、このような大げさな表現は不自然であり、英語の慣用ではありません。

 

The fire started (broke out) in the kitchen.が正しいわけです。日本語でも、「火事は台所で勃発した」はおかしな表現です。Originateはもっと永続した事柄に対してThis custom originated in ancient Rome.のように使うものです。

 

あるいはまた文法的な間違いではありませんが異様な例文もあります。中には一世紀も前の用語で今は日常語としては使われていないようなものもあり、当の英米人を驚かせることがあります。例えば「〜するのを常にしている」というのは今日ではas a rule, my rule is, usually, make a point ofなどがあり、日本の辞書によくあるmake it a rule to doは古くさくておかしいわけです。

 

「天気がよければ」のWeather permittingもよく日本の辞書にありますが「天気よかりせば」というようで、これも古くておかしいわけです。

 

いま挙げたのはほんの一例で、このような、英米人が見て奇妙に感じる説明が日本の英和や和英辞書に散見されます。

 

だからといって、何もこれらの辞書が無価値であるというのではなく、ただいつでも英英辞書で確かめるだけの注意が必要だということです。

 

以上の理由により、英語辞書の使用をすすめますが、初心者の場合には英和辞書のほうが(特に具体名詞については)便利ですから、初めのうちは基本的には英和辞書を用い、めざす単語の具体的意味や、全体的ニュアンスがつかみ難い場合にのみ英語辞書に当って、その場に最適の訳語を考え出すようにすればよいわけです。

 

やがて、英語(英英)辞書だけを使って、英和辞書は一切使わないところにまで達するのが理想です。

 

勧められる英英辞書としては13巻より成るOxford English Dictionaryが英国で、そのアメリカ版ともいうべき4巻より成るDictionary of American Englishが米国で出版されています。

 

しかし一般向きには小型のConcise Oxford Dictionary, American College Dictionaryがあります。

 

なおThe Advanced Learner’s Dictionary of Current English, by A. S. Hornby et al.は各名詞ごとにCountable, NounとUncountable, Nounの別をC・Uの記号で示し、一つの名詞でC・Uの両方があればそれぞれの意味の違いを説明してあって日本人にはありがたい英英辞書です。

 

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